郵便局員から手渡しで受け取った、裁判所の名前が入った封筒。開けてみると「訴状」と書かれた書類が入っている。心臓が跳ねて、そのまま引き出しにしまってしまった。そんな話は珍しくありません。
ただ、ここではっきりお伝えしなければならないことがあります。訴状を無視することは、考えられるかぎり最悪の選択です。何もしないという判断が、そのまま「相手の言い分をすべて認めた」という扱いにつながる仕組みになっているからです。
この記事では、借金をめぐって裁判を起こされたときに何が起きるのか、そして期日までに何をすればよいのかを順番に整理します。書類の期限は待ってくれません。読み終えたら、その日のうちに弁護士・認定司法書士・法テラスのいずれかへ連絡を入れてください。

訴状が届いたということは、どういう状態か
貸金業者やカード会社、債権回収会社は、返済が長期間止まっている債権について、裁判を通じて回収する手続きをとることがあります。裁判所に訴えが提起されると、裁判所から被告となった人へ訴状と口頭弁論期日の呼出状、答弁書の用紙などが送られます。
この送達は特別送達という方法で行われ、原則として受け取りの記録が残ります。「不在で受け取っていない」としても、手続き上は送達が完了したものとして扱われる場合があります。受け取っていないから関係ない、という理屈は通りません。
封筒に入っている主な書類
| 書類 | 確認するポイント |
|---|---|
| 訴状 | 誰が原告か、請求額はいくらか、いつの契約か |
| 口頭弁論期日呼出状 | 期日の日時と場所、答弁書の提出期限 |
| 答弁書の用紙・記載例 | 提出先の裁判所と事件番号 |
| 証拠書類の写し | 契約書、取引履歴、債権譲渡の通知など |
特に見落としてはいけないのが、原告の名前と最後に取引をした日付です。まったく身に覚えのない会社名でも、債権が譲渡されていれば別の会社が原告になります。また、最後の返済からかなり時間が経っている場合には、後述する時効という論点が出てくることがあります。
届いた訴状や呼出状、手元の契約書などは、なくさないように1冊のファイルにまとめておくと、相談の際にもそのまま持参できます。
答弁書を出さずに欠席すると何が起きるか
ここがこの記事のいちばんの山場です。被告が答弁書を提出しないまま口頭弁論期日にも出席しなかった場合、原告が訴状で主張した事実を被告が争わなかったものとみなされます。これを擬制自白といい、民事訴訟法159条に定められた扱いです。
その結果どうなるか。争いがない以上、審理を続ける必要がなくなり、原告の主張どおりの内容で判決が言い渡されます。実務上、ほとんどの場合は請求の全部が認められる判決になります。金額も、遅延損害金も、原告が書いたとおりに確定していきます。
判決が確定すると、それは強制執行の根拠となる「債務名義」になります。給与や預金の差押えが可能になり、勤務先に差押命令が届けば借金の存在が職場に知られる可能性も出てきます。
答弁書を出すだけで変わること
反対に、答弁書を提出しておけば擬制自白は成立しません。第1回の期日については、答弁書を出しておけば出席しなくても、その内容を陳述したものとして扱われる取り扱いがあります(陳述擬制)。つまり答弁書は、時間を確保するための最低限の防具でもあるのです。
答弁書には、請求の内容を認めるのか争うのか、分割払いの希望があるのかといったことを記載します。書き方が分からない場合、簡易裁判所には手続案内の窓口があり、書類の書き方について無料で説明を受けられます。ただし窓口は手続きの案内をする場所であり、どう主張すべきかという中身の助言はしてもらえません。主張の中身については、必ず弁護士・認定司法書士に相談してください。

訴状が届いてからの流れ
ステップ1:期限を紙に書き出す
呼出状に書かれた答弁書の提出期限と、口頭弁論期日の日時を確認します。提出期限は期日より前に設定されているのが通常です。まずこの二つの日付を、目に入る場所に書き出してください。
ステップ2:請求内容が正しいか確かめる
訴状に書かれた金額、契約日、最終取引日を、自分の記憶や手元の資料と突き合わせます。すでに一部を返済しているのに反映されていない、同じ債権を二重に請求されている、といったことがまったくないとは言えません。
ステップ3:その日のうちに専門家へ連絡する
相談の予約はすぐに埋まることがあります。「訴状が届いていて、答弁書の期限が◯日です」と最初に伝えると、緊急性が伝わりやすくなります。費用面が不安なら、法テラスの民事法律扶助という制度があります。
ステップ4:答弁書を期限内に提出する
専門家に依頼できた場合は代理人が対応します。間に合わない場合でも、まずは自分の名前で答弁書を提出し、欠席による敗訴だけは避けるという判断が必要になる場面があります。
裁判の途中で和解になることもある
借金の裁判は、必ずしも判決まで進むわけではありません。裁判所で話し合いがまとまり、分割払いの内容で和解が成立するケースは実際にあります。原告側も、判決を取って差押えをするより、現実的に払える計画で回収したいと考えることがあるからです。
ただし、和解の内容は約束として重い意味を持ちます。和解調書も強制執行の根拠になり得るため、支払えない金額で合意してしまうと、あとで身動きが取れなくなります。無理のない金額かどうかを冷静に判断するためにも、専門家の目を通してもらうことをおすすめします。
裁判が起きている段階でも、任意整理・個人再生・自己破産といった債務整理の手続きを検討することはできます。どれが適しているかは、借入総額・収入・財産の状況によって変わります。効果や期間、費用は事案ごとに異なります。
無理のない分割額を考えるうえでも、毎月の収入と支出を家計簿などで把握しておくと判断しやすくなります。
時効という論点があるケース
最後の返済からかなりの年数が経っている場合、消滅時効が問題になることがあります。ただしこれは慎重な扱いが必要な論点なので、順を追って説明します。
時効の期間
現行の民法166条1項では、債権は、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき、または権利を行使することができる時から10年間行使しないときに時効によって消滅するとされています。貸金の返済請求は、通常は返済期日を債権者が把握しているため、5年が問題になる場面が多くなります。なお、改正前の法律が適用される古い債権では、商事債権として5年、それ以外は10年という整理がされていました。どちらのルールが適用されるかは契約の時期などによって変わります。
時効はかんたんにリセットされる
ここが最も重要な部分です。時効期間が経過しているように見えても、次のような事情があると時効はリセットされたり、完成が先延ばしになったりします。
・裁判上の請求:訴えを起こされると時効の完成が猶予され、判決が確定すると時効が更新されます。確定判決で確定した権利は、あらためて10年の時効にかかる扱いになります
・強制執行:差押えなどの手続きによっても更新されます
・債務の承認:1円でも支払ったり、「必ず返します」と認める書面にサインしたりすると、それが債務の承認とみなされて時効が更新されます
つまり、時効の可能性がある人ほど、業者からの電話で「少しでいいから払ってください」と言われて応じるのが危険です。よかれと思って払った少額が、時効の主張の道を閉ざしてしまうことがあります。
時効は自動では成立しない
期間が経過しただけでは、債務は当然には消えません。時効の利益を受けるという意思表示、つまり時効の援用が必要です。裁判の中で主張する場合は、答弁書などで適切に主張する必要があります。
時効の援用は、期間の計算、適用される法律、更新事由の有無といった判断が絡み合う手続きです。判断を誤ると、援用しようとした行為が逆に債務の承認と受け取られてしまうこともあります。時効の援用を考えている場合は、自分で業者に連絡する前に、必ず弁護士・認定司法書士に相談してください。

相談できる窓口
・法テラス(日本司法支援センター)サポートダイヤル 0570-078374
・消費者ホットライン 188(局番なし・最寄りの消費生活センター等につながります)
・日本貸金業協会 貸金業相談・紛争解決センター 0570-051-051
・お住まいの地域の弁護士会 法律相談センター/司法書士会の相談センター
・各財務局の多重債務相談窓口、自治体の法律相談
法テラスの民事法律扶助では、収入や資産が一定の基準以下であるといった条件を満たす場合に、同一の案件について3回まで無料の法律相談を受けられる仕組みがあります。弁護士・司法書士費用の立替えを利用できる場合もあります。
よくある質問
Q. 訴状を受け取らなければ裁判は進みませんか?
進みます。受け取りを避け続けた場合でも、付郵便送達や公示送達といった方法によって手続きが進められることがあります。公示送達は、相手の住所や居所が分からない場合に、裁判所の掲示等によって送達の効力を生じさせる制度です。本人が知らないまま判決が確定してしまう事例も実際にあります。
Q. 期日に仕事があって行けません。
まずは答弁書を期限内に提出してください。第1回期日については、答弁書を提出しておけばその内容を陳述したものとして扱われる取り扱いがあります。第2回以降は扱いが異なるため、代理人を立てるか、裁判所へ事情を伝えて相談してください。
Q. 請求されている金額が実際より多い気がします。
取引履歴を取り寄せて確認する必要があります。過去の取引の内容によっては、計算し直すことで残債の見え方が変わる場合もあります。判断には専門的な計算が必要なので、資料を持って相談してください。
Q. 少額訴訟という書類が届きました。通常の裁判と違うのですか?
少額訴訟は、60万円以下の金銭の支払を求める場合に利用できる手続きで、原則として1回の審理で終わる点が大きく異なります。被告の側から通常訴訟への移行を求めることもできます。詳しくは少額訴訟の記事で解説しています。
Q. 判決が出てしまいました。もう何もできませんか?
判決が確定していても、債務整理そのものができなくなるわけではありません。ただし選べる手続きや進め方は状況によって変わります。差押えが始まる前に相談することで、選択肢が残る場合があります。
Q. 家族に知られずに対応できますか?
裁判所からの書類は自宅に届くため、完全に伏せるのは容易ではありません。ただし連帯保証人になっていない家族に、本人の借金の支払義務が生じることはありません。まずは事実関係を整理し、専門家に現実的な対応を相談してください。
まとめ
借金で裁判を起こされたときに絶対に避けるべきなのは、何もしないまま期日を過ぎることです。答弁書を出さずに欠席すれば擬制自白によって相手の主張が認められ、判決が強制執行の根拠になります。
逆に言えば、答弁書を出して土俵に乗るだけで、話し合いによる分割和解の道や、時効をはじめとする主張を検討する余地が生まれます。期限内に動けるかどうかがすべてを分けるのがこの手続きです。
訴状が届いたら、その日のうちに弁護士・認定司法書士・法テラスへ連絡してください。費用が不安な場合も、まず事情を伝えることから始まります。
なお、この記事は一般的な情報提供であり、個別の法的助言ではありません。手続きの効果・期間・費用は事案ごとに異なります。実際の判断にあたっては専門家へご相談ください。
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