就職はしたものの収入が思ったほど伸びない。転職の間に無収入の期間ができた。病気や出産で働けない時期がある。そうした事情で奨学金の返還が重く感じられるとき、日本学生支援機構(JASSO)には「返還期限猶予」という制度が用意されています。
ただし、この制度について最初に押さえておいてほしいことがあります。返還期限猶予は、返済が免除される制度ではありません。JASSOも「返還すべき元金や利子が免除されるものではありません」と明記しています。返還の期限を先に延ばす、つまり支払う時期をずらす制度だと理解してください。
この記事では、返還期限猶予の要件、必要書類、申請の流れを、JASSOが公開している情報にもとづいて整理します。あわせて、毎月の返還額を減らす「減額返還」との違いにも触れます。

返還期限猶予とはどういう制度か
返還の期限を先に延ばす制度
返還期限猶予は、返還が困難な事情があるときに、願い出によって一定期間、返還の期限を先延ばしする制度です。承認されると「奨学金返還期限猶予承認通知」が届き、承認された期間中は返還を求められません。猶予期間が終われば返還が再開され、その分だけ返還終了予定日が後ろにずれます。
免除ではないという点
繰り返しになりますが、猶予は免除とは別の制度です。元金も利子も消えるわけではなく、支払う時期が移動するだけです。返還が免除される制度としては、死亡または精神もしくは身体の障害による返還免除の規定が別に設けられていますが、要件はまったく異なります。
猶予できる期間には上限がある
一般猶予の場合、猶予の期間は通算10年(120か月)が限度とされています。ただしJASSOは、災害、傷病、生活保護受給中、産前休業・産後休業および育児休業、大学校在学(防衛大学校等一部の大学校)、海外派遣(青年海外協力隊等)については、当該事由が継続している間は返還期限猶予を願い出ることができると案内しています。自分の事情がどの区分に当たるかで上限の考え方が変わるため、JASSOの案内で確認してください。
猶予は「返さなくてよくなる」制度ではなく「返す時期を後ろにずらす」制度です。使えば返還終了の年齢も後ろにずれます。その前提で、使うタイミングを考えましょう。
返還の時期をどう組み立てるかを考えるうえでは、家計全体の見通しも欠かせません。お金の基本を一冊で押さえておく方法もあります。
申請できる事由と収入の基準
主な申請事由
JASSOは一般猶予の申請事由を、猶予できる年数の制限によって次のように整理しています。区分によって提出する証明書が変わります。
| 区分 | 申請事由 |
|---|---|
| 猶予年数の制限なし | 傷病、災害、生活保護受給中、産前産後・育児休業、大学校在学、海外派遣 |
| 通算10年まで | 経済困難、失業中、新卒等、特別研究員、外国で研究中、海外居住、今年海外から帰国 |
| 別枠で通算10年まで | 外国の学校へ留学 |
なお、大学・短期大学・専修学校などに在学している場合の「在学猶予」は一般猶予とは別の手続きで、学校を通じて願い出ます。上の表にある「大学校在学」は防衛大学校等の一部の大学校を指すもので、一般の大学とは扱いが異なります。
経済困難の収入基準
最も利用されるのが経済困難による申請です。JASSOが公表している承認基準は次のとおりです。
| 区分 | 基準 |
|---|---|
| 給与所得者 | 税込年収300万円以下 |
| 給与所得者以外 | 年間所得200万円以下 |
※JASSO公表の承認基準(記事執筆時点)。基準は制度改正により変更されることがあるため、申請前にJASSO公式サイトで最新の内容をご確認ください。
基準を超えていても認められる場合がある
年収が基準を超えていても、傷病による医療費や被扶養者の教育費といった「特別支出」に該当する支出があれば、収入から控除したうえで判定されることがあります。基準額をわずかに超えているという理由だけであきらめず、特別支出に当たるものがないか確認してください。控除計算表などの様式がJASSOから提供されています。

申請の方法と流れ
1.申請方法を選ぶ
申請には2つの方法があります。
| 方法 | 内容 |
|---|---|
| スカラネット・パーソナル | JASSOのオンラインサービスから願い出る方法。JASSOが利用を推奨 |
| 郵送 | 「奨学金返還期限猶予願」に記入し、証明書類とチェックシートを添えて郵送 |
オンラインでの手続きが難しい場合は、願出用紙を取り寄せて郵送する方法が用意されています。用紙はJASSOの公式サイトからダウンロードするか、電話で請求できます。
2.必要書類をそろえる
提出する証明書は、申請する事由によって変わります。代表的なものを整理します。
| 事由 | 主な証明書の例 |
|---|---|
| 経済困難 | 所得証明書、市県民税(所得・課税)証明書、住民税非課税証明書のいずれか(原本) |
| 失業中 | 雇用保険受給資格者証、雇用保険被保険者離職票、雇用保険被保険者資格喪失確認通知書などのコピー |
| 傷病 | 医師または病院長による診断書(最近2か月以内に発行されたもの)+所得を証明する書類 |
| 産前産後・育児休業 | 産前産後休業・育児休業の証明書など |
| 生活保護受給中 | 生活保護受給証明書など |
| 災害 | り災証明書など |
※必要書類は事由や状況によって異なります。実際に提出する書類はJASSOの「一般猶予の申請事由と必要な証明書」で確認してください。経済困難の基本の証明書は源泉徴収票ではなく、市区町村が発行する所得証明書等です。ただし、減収・休職・失業によって推定年収で審査を受ける場合などには、直近の給与明細や休業の証明書を別に求められることがあります。なお、マイナンバーを提出済みの場合は、所得を証明する書類を省略できる取扱いがあります。
証明書の原本や提出書類の控え、届いた通知は、クリアファイルなどでまとめて保管しておくと、翌年の願い出の際にも確認しやすくなります。
3.猶予を希望する期間を指定し、早めに提出する
猶予願では、返還を止めてほしい期間を自分で指定します。JASSOの記入案内では、「できるだけ早い時期から12か月」「できるだけ早い時期から1か月単位で希望の年月(最長12か月)まで」「猶予希望開始年月から1か月単位で希望の年月(最長12か月)まで」という3つの指定の仕方が示されています。1回の願い出で指定できるのは最長12か月です。
提出の締切は事由や手続きの状況によって扱いが変わります。JASSOは返還期限猶予のページで「延滞する前にすみやかに手続きをおこなってください」と案内していますので、猶予を考えた時点で動き出してください。受付の具体的な時期については、JASSO公式サイトまたは奨学金相談センターで最新の情報をご確認ください。
4.審査中も請求は止まらない
ここは非常に重要な点です。JASSOは、審査中は口座振替の請求や督促通知を停止できないと案内しています。申請したから引き落としが止まる、というわけではありません。承認の通知が届くまでは、通常どおり請求が続く前提で準備してください。
5.承認されなかった場合
不承認となった場合は、引き続き返還する(または返還を開始する)ことになります。すでに延滞となっている場合は延滞金が課されます。書類の不備で審査が進まないケースもあるため、チェックシートで記入漏れや添付漏れを確認してから提出してください。
6.1年ごとに願い出が必要
返還期限猶予は1年ごとに願い出が必要です。一度承認されたら自動的に継続されるわけではありません。延滞中の場合は、延滞開始年月から12か月ごとに猶予願と証明書を提出する必要があるとされています。承認通知が届いたら、次回の申請時期を必ずカレンダーに書き込んでおいてください。
猶予の更新を忘れると、猶予が切れた月から返還が再開されます。気づかないまま口座残高が不足すると、延滞が始まってしまいます。更新時期の管理は自分で行う必要があります。

減額返還という選択肢もある
毎月の返還額を減らす制度
返還そのものは続けられるけれど毎月の額が重い、という場合には減額返還制度があります。JASSOの公表内容によれば、返還月額を3分の2、2分の1、3分の1または4分の1に減額できるとされています。
返還総額は減らない
減額返還についても、押さえておくべき前提があります。減額返還制度は返還総額を減らす制度ではありません。JASSOは「減額返還適用期間に応じた分の返還期間を延長します」と案内しています。月々の負担は軽くなりますが、返し終わるまでの期間が延びるということです。
適用期間と収入基準
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 減額の幅 | 返還月額の3分の2、2分の1、3分の1、4分の1 |
| 適用期間 | 1回の願出につき12か月。最長15年(180か月)まで延長可能 |
| 返還総額 | 減らない(期間が延びる) |
| 申請方法 | スカラネット・パーソナルまたは願出用紙の郵送 |
経済困難による減額返還の収入基準は、返還期限猶予とは別に定められており、扶養している子どもの人数によって基準額が変わる取扱いがあります。基準は制度改正で変わることがあるため、申請時点の基準をJASSO公式サイトで確認してください。
猶予と減額返還の使い分け
| 制度 | 向いている状況 |
|---|---|
| 返還期限猶予 | 失業中、休職中など、いま返還に回せる資金がまったくない状況 |
| 減額返還 | 収入はあるが、現在の月額が家計を圧迫している状況 |
どちらが合うかを考えるには、毎月の収入と支出を家計簿で書き出し、返還に回せる金額を把握しておくと判断しやすくなります。
延滞してしまっている場合
すでに延滞している状態でも、申請ができないわけではありません。延滞中の方向けの手続きが用意されています。ただし、返還誓約書が提出されていない場合は猶予願の審査ができないとされていますので、まずは自分の手続き状況をJASSOに確認してください。
延滞が長期化すると、個人信用情報機関への登録や、法的手続きに進む可能性があります。延滞している事実そのものより、連絡が取れない状態が続くことのほうが状況を悪くします。まずはJASSOの奨学金相談センターに連絡することから始めてください。
返還全体の見通しが立たないときの相談先
奨学金以外にもカードローンやクレジットの支払いが重なっていて、全体として返済が回らないという場合は、借金問題として整理する必要が出てきます。
| 窓口 | 連絡先 | 内容 |
|---|---|---|
| 日本学生支援機構 奨学金相談センター | JASSO公式サイトに記載 | 猶予・減額返還など奨学金の手続き全般 |
| 法テラス | 0570-078374 | 法的トラブルの総合案内。資力基準を満たせば無料法律相談も利用可 |
| 日本クレジットカウンセリング協会 | 0570-031640 | 多重債務ほっとライン。相談は無料 |
| 消費者ホットライン | 188 | 身近な消費生活センター等につながる |
債務整理の対象に奨学金を含めるかどうかは、連帯保証人や機関保証の有無によって影響が大きく変わります。人的保証を付けている場合、本人が整理すると保証人に請求が及びます。効果・費用・期間は事案によって異なりますので、必ず弁護士・認定司法書士・法テラスに相談したうえで判断してください。この記事は一般的な情報の整理であり、個別の法的助言ではありません。
制度の詳細と最新の基準は日本学生支援機構(JASSO)の返還が難しくなったときのページに掲載されています。公的な相談窓口の一覧は金融庁の多重債務についての相談窓口、無料法律相談の資力基準は法テラスの公式サイトで確認できます。

よくある質問
猶予を使うと信用情報に記録されますか
制度にもとづいて承認された猶予は、延滞とは異なる扱いです。一方で、延滞を続けた場合には個人信用情報機関への登録の対象になります。延滞する前に猶予や減額返還を申請するほうが、結果的に不利益が小さくなると考えてよいでしょう。
審査にはどのくらいかかりますか
提出書類の内容や時期によって異なります。承認の通知が届くまで請求は止まらないため、余裕をもって申請することが大切です。
猶予期間が終わったらどうなりますか
返還が再開されます。返還終了予定日は猶予した期間の分だけ後ろにずれます。再開時期は承認通知に記載されていますので、確認しておいてください。
2つの奨学金を借りている場合はどうなりますか
複数の貸与奨学金を返還している場合の取扱いは、JASSOに個別の案内があります。まとめて手続きできるのか、別々に必要なのかを確認してください。
猶予中に転職や収入増があったら申告が必要ですか
猶予は1年ごとの願い出制ですので、次回の申請時に現在の収入で判定されます。状況が変わった場合の取扱いについては、JASSOに確認するのが確実です。
親(連帯保証人)に連絡がいきますか
延滞が続いた場合、連帯保証人や保証人に対して請求が行われることがあります。保証人への影響を避けたいのであれば、延滞に至る前に猶予や減額返還を申請することが有効です。
返還が免除される制度はありますか
死亡または精神もしくは身体の障害による返還免除の規定が設けられています。要件は厳格に定められており、猶予とはまったく別の制度です。詳細はJASSOの公式サイトで確認してください。
まとめ
奨学金の返還期限猶予は、返還が困難な事情があるときに返還の期限を先延ばしする制度です。元金や利子が免除される制度ではないという点を、まず押さえてください。
手続きの要点は次のとおりです。申請はスカラネット・パーソナルまたは郵送で行い、事由に応じた証明書を添付します。経済困難による承認基準は給与所得者で税込年収300万円以下、給与所得者以外で年間所得200万円以下とされています。1回の願い出で指定できる猶予期間は最長12か月で、継続するには1年ごとに願い出が必要です。JASSOは延滞する前にすみやかに手続きするよう案内しています。審査中も請求は止まりません。
収入はあるが月々の額が重いという場合は、減額返還という選択肢もあります。こちらも返還総額が減るわけではなく、期間が延びる仕組みです。どちらを使うかは状況によって変わります。
奨学金以外の債務も重なって全体が回らない場合は、法テラス(0570-078374)や日本クレジットカウンセリング協会の多重債務ほっとライン(0570-031640)などの窓口に相談してください。奨学金は保証人が関わることが多く、判断には専門的な検討が必要です。効果や費用は事案によって異なりますので、弁護士・認定司法書士への相談を通じて決めてください。



