収入が減った、病気で働けない期間ができた、教育費が想定より膨らんだ。理由はさまざまですが、住宅ローンの返済が重くなってきたときに最も避けたいのは、何もしないまま時間が過ぎることです。
住宅ローンの滞納は、他の借入とは決定的に違う点があります。担保に入っている自宅を失う手続きが、法的に用意されているという点です。滞納が続けば期限の利益を失い、最終的には競売に至ります。
ただし、そこに至るまでには複数の分岐点があり、それぞれの段階で取れる手段があります。この記事では、返済が困難になったときにどう動けばよいのかを、公的機関が公表している情報にもとづいて整理します。早く動くほど選べる選択肢は多いという点を意識して読み進めてください。

滞納を放置するとどうなるか
期限の利益を失う
「期限の利益」とは、決められた期日まで待ってもらえる権利のことです。住宅ローンを毎月少しずつ返済できるのは、この権利があるからです。
滞納が続くと、金融機関から「期限の利益喪失予告」といった書面が内容証明郵便などで届きます。そこに記載された最終期日を過ぎると、期限の利益は失われます。こうなると、残っているローンの全額を一度に請求されることになります。数千万円の残高がある状態で一括請求を受けても、支払える人はまずいません。
保証会社の代位弁済
多くの住宅ローンには保証会社が付いています。期限の利益を喪失すると、保証会社が金融機関に残債を一括で支払います。これを代位弁済といいます。以後、請求は保証会社から届くことになります。
この「代位弁済」という言葉が出てきたかどうかは、後の選択肢を左右する重要な分岐点です。届いた書面は捨てずに保管し、日付を確認してください。
金融機関や保証会社から届いた書面は、届いた順に1冊のファイルへまとめておくと、相談の際に経緯を説明しやすくなります。
競売の申立て
それでも支払いがない場合、保証会社は裁判所に競売を申し立てます。競売開始決定が出ると、裁判所の執行官による現況調査が行われ、入札を経て売却されます。競売による売却価格は市場価格を下回ることが多く、売却後も残債が残る可能性があります。しかも、その時点で自宅からの退去を求められます。
| 段階 | 起きること | この時点で取れる主な手段 |
|---|---|---|
| 滞納する前・滞納直後 | 督促の連絡が始まる | 金融機関への相談(返済条件の変更) |
| 滞納が数か月続く | 期限の利益喪失の予告 | 条件変更の相談、個人再生の検討 |
| 期限の利益喪失 | 残債の一括請求 | 個人再生(住宅資金特別条項)、任意売却 |
| 保証会社の代位弁済 | 請求元が保証会社に変わる | 代位弁済から6か月以内なら「巻戻し」の可能性 |
| 競売の申立て・開始決定 | 裁判所の手続きが進む | 任意売却(開札までの期間に限られる) |
※進み方や期間は金融機関・保証会社・契約内容によって異なります。届いた書面の記載を優先して確認してください。
対策1:まず金融機関に相談する(返済条件の変更)
これが最初にやるべきこと
返済が苦しいと感じた時点で最初に取るべき手段は、借り入れている金融機関への相談です。返済条件を見直すことを、実務では返済条件の変更やリスケジュールと呼びます。滞納が始まる前に相談したほうが、応じてもらえる余地は大きくなります。
住宅金融支援機構の返済方法変更メニュー
フラット35などで住宅金融支援機構の融資を利用している場合、機構は返済方法の変更メニューを公表しています。公表されている内容は次のとおりです。
| タイプ | 内容 | 対象となる状況 |
|---|---|---|
| Aタイプ | 返済期間の延長など | 離職や病気等で収入が減少し、返済が大変になった |
| Bタイプ | 一定期間における返済額の減額 | しばらくの間、返済額を減らして返済したい |
| Cタイプ | ボーナス返済分の変更・取り止めなど | ボーナス返済が負担になっている |
機構の公表によれば、これらの変更に手数料はかからず、複数のメニューを組み合わせられる場合もあるとされています。また、年齢が満70歳以上等の方はシルバー返済特例を適用できる場合があるとも案内されています。
返済方法の変更には審査があり、希望どおりにならない場合があります。また、機構は「返済方法変更により総返済額が増えることがあります」と明記しています。月々が楽になる代わりに、支払う総額は増える可能性があるという前提で判断してください。
現在の条件と変更後の条件で総返済額を比べる際は、提示された数字を電卓で手元でも確かめておくと安心です。
申込先は「返済中の金融機関」
住宅金融支援機構の融資を利用している場合でも、手続きの申込先は機構ではなく、返済中の金融機関(融資のお申込先の金融機関)です。民間の住宅ローンの場合も、まずは借り入れている金融機関の相談窓口に連絡します。

対策2:個人再生の住宅資金特別条項
自宅を残しながら他の債務を整理する
住宅ローン以外にもカードローンなどの債務があり、全体として返済が回らないという場合、個人再生という裁判所の手続きの中で「住宅資金特別条項」(住宅ローン特則)を利用できる場合があります。
これは、住宅ローンについては従来どおり(または期限を延ばして)支払いを続け、その他の債務を圧縮するという仕組みです。自宅を手放さずに再建を図る道として設けられています。
利用するための主な要件
裁判所の手続きである以上、要件は法律で定められています。一般に次のような点が挙げられます。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 手続き | 民事再生(個人再生)の手続きを利用すること |
| 所有 | 個人である再生債務者が住宅を所有していること |
| 用途 | 再生債務者が自己の居住の用に供する建物であること |
| 面積 | 建物の床面積の2分の1以上が居住の用に供されていること |
| 担保 | 住宅ローンを担保する抵当権が設定されていること |
このほかにも、その住宅に住宅ローン以外の担保権が設定されていないことなど、個別に検討すべき点があります。要件に当てはまるかどうかの判断は専門的ですので、弁護士や司法書士に確認してください。
個人再生は裁判所への申立てを伴う手続きのため、司法書士は代理人になることができず、関与できるのは書類作成の範囲にとどまります。認定司法書士が代理人として交渉できるのは、1社あたりの債権額が140万円以下の任意整理などに限られます(最高裁平成28年6月27日判決)。住宅ローンを抱えたまま個人再生を検討する場面では、代理人として手続きを進められる弁護士に相談することを検討してください。
代位弁済後の「巻戻し」には期限がある
ここは特に重要な点です。保証会社が代位弁済をした後は、原則として住宅資金特別条項を利用できなくなります。ただし例外があり、保証会社が保証債務の全部を履行した日から6か月を経過する日までに再生手続開始の申立てをした場合に限り、代位弁済がなかったものとして扱われます。これを実務上「巻戻し」と呼びます。
逆にいえば、代位弁済から6か月を過ぎてしまうと、この道は使えなくなります。保証会社から代位弁済の通知が届いたら、その日付を確認してすぐに専門家へ相談してください。時間の勝負になる場面です。
「代位弁済のお知らせ」が届いたら、まず日付を確認。6か月という期限があるため、相談を先延ばしにするほど選択肢が減っていきます。
対策3:任意売却
競売とは異なる売り方
返済の継続がどうしても難しい場合、自宅を売却して残債を圧縮するという選択肢があります。住宅金融支援機構も、返済の継続が困難になった場合に融資住宅等の任意売却によって残債務を圧縮する方法を案内しています。
任意売却は、競売のような法的手続きによる強制的な物件処分ではなく、通常の不動産取引に近い形で売却する方法です。そのため、競売より高い価格で売れる可能性があり、引渡しの時期についても相談の余地があります。
任意売却で押さえておきたいこと
ただし、任意売却には債権者(金融機関や保証会社)の同意が必要です。また、売却しても残債が残る場合、その支払いは続きます。「売れば終わり」ではなく、売却後の残債をどう扱うかまで含めて計画する必要があります。
競売の手続きが進んでしまうと、任意売却ができる期間は限られます。開札の期日が近づくほど時間的な余裕はなくなりますので、検討するなら早い段階で動くことになります。


家計の見直しも同時に進める
住宅ローン以外の支出を点検する
返済条件の変更を相談する際にも、家計の状況を説明することになります。保険料、通信費、サブスクリプション、教育費など、固定費を洗い出してください。住宅ローンだけを見るのではなく、家計全体の収支を一枚にまとめることが出発点です。
固定費の洗い出しには、項目ごとに支出を書き込める家計簿を使うと、全体の収支を把握しやすくなります。
他の借入がある場合の順序
カードローンやクレジットの支払いも重なっている場合、どこから手を付けるかの判断が必要です。住宅ローン以外の債務を整理することで住宅ローンの返済が続けられるようになるケースもあれば、住宅を手放す前提で組み立てたほうがよいケースもあります。この判断は個別性が高く、一般論では決められません。
使える公的支援がないか確認する
失業や収入減が原因である場合、自治体の生活困窮者向けの相談窓口や、住居確保に関する支援制度が利用できることがあります。お住まいの市区町村の福祉相談窓口に問い合わせてみてください。
相談先の整理
| 相談先 | 連絡先 | 相談できること |
|---|---|---|
| 返済中の金融機関 | 各金融機関の相談窓口 | 返済条件の変更(最初に相談する先) |
| 住宅金融支援機構 | 公式サイトのご相談窓口 | 機構融資の返済方法変更メニュー、任意売却の案内 |
| 法テラス | 0570-078374 | 法的トラブルの総合案内。資力基準を満たせば無料法律相談も利用可 |
| 各地の弁護士会 | 法律相談センター | 個人再生・任意売却などの法律相談 |
| 日本クレジットカウンセリング協会 | 0570-031640 | 多重債務ほっとライン。相談は無料 |
| 消費者ホットライン | 188 | 身近な消費生活センター等につながる |
返済方法の変更や任意売却の詳細は住宅金融支援機構「月々の返済でお困りになったとき」に掲載されています。無料法律相談の資力基準は法テラス、公的な相談窓口の一覧は金融庁の多重債務についての相談窓口で確認できます。
個人再生や任意売却を選べるかどうか、どの方法が適しているかは、収入・残債・他の債務・家族構成などによって大きく変わります。効果・費用・期間はいずれも事案によって異なりますので、具体的な判断は弁護士・司法書士・法テラスへの相談を通じて行ってください。この記事は一般的な情報の整理であり、個別の法的助言ではありません。

よくある質問
返済条件の変更をすると信用情報に記録されますか
金融機関によって取扱いが異なります。相談の際に、記録の扱いがどうなるかも含めて確認しておくとよいでしょう。いずれにしても、滞納を続けて期限の利益を喪失するほうが、信用情報への影響は大きくなります。
何か月滞納すると競売になりますか
金融機関や保証会社の対応によって異なります。一般的には、滞納が数か月続くと期限の利益喪失の予告が届き、その後に代位弁済、競売申立てという流れになります。届いた書面に記載された期日が実際の判断基準ですので、書面を必ず確認してください。
ボーナス返済が重い場合はどうすればよいですか
住宅金融支援機構の場合、ボーナス返済分の変更・取り止めというメニュー(Cタイプ)が案内されています。民間の住宅ローンでも同様の相談ができる場合がありますので、金融機関に問い合わせてください。
個人再生をすると家族に知られますか
手続きの内容によって、家族の協力が必要になる場面があります。特に家計を共にしている場合、家計の資料の提出を求められることがあります。どこまで説明が必要になるかは事案によりますので、相談時に確認してください。
ペアローンや連帯債務の場合はどうなりますか
夫婦でペアローンを組んでいる場合や連帯債務の場合、一方だけの問題では済まないことが多くなります。取扱いが複雑になるため、早い段階で専門家に相談することをおすすめします。
売却しても残債が残ったらどうなりますか
残った債務の支払義務は続きます。残債の支払いが困難な場合、その部分について債務整理を検討することになります。売却前の段階から、売却後の見通しを含めて相談しておくことが大切です。
相談すると家を取られてしまうのではないですか
むしろ逆です。返済条件の変更は、返済を続けてもらうための制度です。相談せずに滞納を重ねることのほうが、自宅を失う手続きに直結します。相談したことで即座に不利な扱いを受けるわけではありません。
まとめ
住宅ローンの返済が困難になったときの基本は、滞納する前に金融機関へ相談することです。住宅金融支援機構の融資であれば、返済期間の延長、一定期間の返済額の減額、ボーナス返済分の変更といったメニューが公表されており、手数料はかからないとされています。ただし審査があり、総返済額が増えることがある点は理解しておく必要があります。
他の債務も重なっている場合は、個人再生の住宅資金特別条項によって自宅を残しながら再建できる可能性があります。保証会社の代位弁済から6か月という期限があるため、書面が届いたら日付を確認してすぐに相談してください。
返済の継続が難しい場合には、任意売却という選択肢もあります。競売より条件を整えやすい一方、債権者の同意が必要で、残債の扱いも検討が必要です。
いずれの方法も、使えるかどうかと効果は事案によって異なります。法テラス(0570-078374)や各地の弁護士会の法律相談センターを利用して、早い段階で専門家の意見を聞いてください。



