封筒を開けるのが怖い。とりあえず引き出しにしまった。督促の相談ではよく聞く話です。ただ、この記事で最初にお伝えしたいことははっきりしています。
督促状を無視することが、最も状況を悪化させます。特に裁判所から届いた書類には期限があり、その期限を過ぎると取れる手立てが大きく減ります。逆に言えば、期限内に動けば選択肢は残ります。
そしてもうひとつ重要な前提があります。貸金業者やカード会社から届く「督促状」と、裁判所から届く「支払督促」は、まったく別のものです。名前が似ているために混同されがちですが、意味も期限も違います。この記事では、その違いを整理したうえで、それぞれの対処を説明します。
届いた書類の差出人を見てください。
・貸金業者・カード会社・債権回収会社=業者からの督促
・簡易裁判所・地方裁判所=裁判所からの手続書類(期限あり・最優先)
裁判所からの書類は特別送達という方法で届き、封筒に「特別送達」と記載されています。

督促状には大きく2種類ある
| 項目 | 業者からの督促状 | 裁判所からの支払督促 |
|---|---|---|
| 差出人 | 貸金業者・カード会社・債権回収会社など | 簡易裁判所(裁判所書記官) |
| 性質 | 支払いを求める民間の通知 | 裁判所の手続き(民事訴訟法にもとづく) |
| 法的な期限 | 法定の期限はない(業者が定めた支払期日はある) | 送達を受けた日から2週間 |
| 放置した場合 | 一括請求・債権譲渡・訴訟等に進む可能性 | 仮執行宣言が付され、強制執行が可能になる |
業者からの督促状が届いたときの対処
まず内容を確認する
債権者名、契約日、元金、遅延損害金、支払期日を確認します。身に覚えのある契約かどうか、そして最後に返済した日はいつかの2点は必ずチェックしてください。後者は、後述する時効の検討に関わります。
届いた督促状は封筒ごと捨てずに、受け取った順にファイルへまとめて保管しておくと、相談のときにも確認しやすくなります。
放置するとどうなるか
返済の遅れが続くと、契約に定められた期限の利益を失い、残額の一括請求に進むのが一般的な流れです。あわせて遅延損害金が加算されます。その後、債権が債権回収会社(サービサー)に譲渡されたり、訴訟や支払督促といった法的手続きに進んだりすることがあります。
督促の連絡を無視し続けても、債務がなくなることはありません。むしろ遅延損害金が積み上がり、法的手続きに進む時期が早まる可能性があります。支払えない状況にあるなら、なおさら早く動いてください。
支払えるなら期日までに支払う
金額が用意でき、内容にも心当たりがあるなら、期日までに支払うのが最もシンプルな解決です。一括での支払いが難しい場合、業者によっては分割の相談に応じることがあります。まず債権者に連絡して、支払える範囲を伝えてみてください。
支払えないなら専門家に相談する
連絡しても支払える見込みが立たないなら、法律の相談窓口へ進んでください。弁護士や認定司法書士に債務整理を依頼すると、受任通知が債権者に送付されます。
貸金業法21条1項9号は、弁護士等から債務処理の受任通知を受けた貸金業者が、正当な理由なく債務者本人に直接支払いを要求することを禁じています。債権回収会社についても、債権管理回収業に関する特別措置法に同様の規定があります。督促の電話や訪問が止まることは、精神的な余裕を取り戻すうえで大きな意味を持ちます。

裁判所から「支払督促」が届いたときの対処
ここからが、期限のある話です。
支払督促とはどういう手続きか
支払督促は、債権者の申立てにもとづき、原則として債務者の住所地を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官が、債務者に金銭等の支払いを命じる手続きです(民事訴訟法382条、383条1項)。債務者を審尋せずに発せられる点が特徴で(民事訴訟法386条1項)、通常の訴訟より簡易・迅速に進みます。
送達を受けた日から2週間以内に督促異議を申し立てる
債務者は、支払督促の送達を受けた日から2週間以内に、支払督促を発した裁判所書記官の所属する簡易裁判所へ督促異議を申し立てることができます(民事訴訟法386条2項、391条1項)。
督促異議が申し立てられると、手続きは通常の訴訟手続に移行し、裁判官が改めて債権者の請求が認められるかどうかを審理します(民事訴訟法395条)。異議の申立て自体に、詳細な理由を書き込む必要はありません。書類には異議申立書の書式が同封されているのが通常です。書き方に迷う場合は、期限内に裁判所の窓口や法律相談窓口に問い合わせてください。
2週間以内に異議を出さないとどうなるか
2週間以内に督促異議の申立てがないと、債権者の申立てにより、支払督促に仮執行宣言が付されます(民事訴訟法391条1項)。仮執行宣言が付された支払督促にもとづいて、債権者は強制執行の申立てをすることができます(民事執行法22条4号)。給与や預金の差押えは、この段階から現実的なものになります。
仮執行宣言付支払督促が届いた場合
仮執行宣言が付された支払督促の送達を受けた場合も、その送達を受けた日から2週間以内であれば督促異議を申し立てることができます(民事訴訟法393条)。ただし、この段階では既に強制執行が可能な状態にあります。異議を申し立てないまま2週間が経過すると、支払督促は確定判決と同一の効力を有するものとされます(民事訴訟法396条)。
受け取りを拒否したり、居留守を使ったりしても、手続きが止まるわけではありません。届いていないつもりでいるうちに期限が過ぎるのが、最も避けたい展開です。裁判所からの封筒は必ず受け取り、開封して日付を確認してください。
「訴状」が届いた場合
支払督促ではなく、訴状と口頭弁論期日呼出状が届くこともあります。この場合は通常の民事訴訟です。同封の答弁書を、指定された期限までに裁判所へ提出してください。
答弁書を出さず、第1回口頭弁論期日にも出頭しないと、原告の主張を認めたものとして扱われ(擬制自白)、そのまま判決が出る可能性があります。支払えない事情がある場合でも、答弁書を出して分割払いの意向を伝えることには意味があります。裁判上の和解につながることもあります。
分割払いの意向を伝えるときは、毎月いくらなら払えるのかを家計簿で把握しておくと、無理のない金額を考えやすくなります。
時効の可能性について
最後の返済からかなりの年数が経っている場合、消滅時効が問題になることがあります。
消滅時効の期間
現行の民法166条1項では、債権は、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間、または権利を行使することができる時から10年間行使しないときに、時効によって消滅するとされています。なお、2020年4月1日より前に発生した債権には、改正前の規定が適用されます(商事債権は5年など)。
時効は自動的には成立しない
期間が経過していても、それだけで債務が消えるわけではありません。時効の利益を受けるには「援用」という意思表示が必要です(民法145条)。実務では、内容証明郵便で援用の通知を送る方法が一般的です。
時効が完成している可能性がある債権について、少額でも支払ったり、支払う約束をしたりすると、「債務の承認」として時効が更新され、そこから期間が振り出しに戻る場合があります(民法152条)。「一部でいいので入金を」という連絡を受けたときは、支払う前に専門家に確認してください。
また、訴訟の提起や支払督促の申立てがあると、時効の完成が猶予されます。裁判所からの書類が届いている状況では、時効の主張ができるかどうかも含めて、期限内に相談することが必要です。
身に覚えのない請求には注意
実在しない債権について支払いを求める架空請求も存在します。心当たりのない請求に、書かれた連絡先へ電話をかけたり、指定口座に振り込んだりしないでください。判断に迷う場合は、消費者ホットライン188や警察相談専用電話#9110に相談してください。
一方で、裁判所からの本物の書類を「架空請求だろう」と決めつけて放置してしまうのも危険です。裁判所名や事件番号が記載されている場合は、書類に記載された裁判所へ直接(自分で調べた代表番号に)電話して真偽を確認してください。
相談先
法テラス(日本司法支援センター)は国が設立した法的トラブルの総合案内所です。サポートダイヤルは 0570-078374。収入と資産が一定の基準以下であれば、弁護士・司法書士による無料法律相談と費用の立替制度(民事法律扶助)を利用できます。基準や受付時間は改定される場合があるため、法テラス公式サイトで確認してください。
このほか、各地の弁護士会・司法書士会の相談センター、自治体の無料法律相談も利用できます。裁判所からの書類が届いている場合は、期限があるため、相談を最優先で進めてください。
よくある質問
Q. 督促異議を申し立てたら、支払わなくてよくなりますか?
A. いいえ。督促異議は、手続きを通常の訴訟に移して、裁判官の審理を受けられるようにするものです。請求内容に争いがある場合や、分割の話し合いをしたい場合に意味があります。債務そのものがなくなるわけではありません。
Q. 2週間の期限を過ぎてしまいました。もう何もできませんか?
A. 仮執行宣言付支払督促が送達された場合、その送達日から2週間以内であれば督促異議を申し立てられます。それも過ぎている場合でも、債権者との交渉や債務整理の検討といった手立てが残っていることがあります。時間が経つほど選択肢は減りますので、すぐに相談してください。
Q. 督促状に書かれた金額が契約時より大きいのですが。
A. 遅延損害金が加算されている可能性があります。内訳(元金・利息・遅延損害金)の明示を求め、契約書や取引履歴と照らして確認してください。納得できない場合は、支払う前に専門家に相談を。
Q. 家族宛てに督促が来ました。私が払う義務はありますか?
A. 原則として、借入をした本人以外に支払義務はありません。ただし、連帯保証人になっている場合や、相続によって債務を承継している場合は別です。相続が絡む場合は、相続放棄などの期限がある手続きもあるため、早めに専門家に相談してください。
Q. 勤務先に連絡が来ることはありますか?
A. 貸金業法21条1項は、正当な理由なく勤務先を訪問したり、債務者の借入について勤務先に伝えたりする行為を規制しています。実際にそのような取立てを受けた場合は、金融庁の相談窓口や弁護士に相談してください。
Q. 引っ越して住所が変わっています。書類が届いていない可能性は?
A. 旧住所に送達され、あなたが知らないうちに手続きが進んでいる可能性があります。心当たりがある場合は、放置せず専門家に相談してください。
Q. 督促状に「法的措置を検討します」と書かれていました。すぐ差押えになりますか?
A. その文言だけで差押えが始まるわけではありません。財産を差し押さえるには、確定判決や仮執行宣言付支払督促といった債務名義が必要になるためです。ただし、この記載は法的手続きに進む段階が近いことを示すサインでもあります。警告の文言が出てきた時点が、相談すべきタイミングだと考えてください。
Q. 「債権譲渡通知」が届きました。知らない会社名です。
A. 元の債権者が債権回収会社(サービサー)などに債権を譲渡した場合、譲受人から通知が届くことがあります。法務大臣の許可を受けた債権回収会社かどうかは、法務省が公表している許可業者の一覧で確認できます。一覧にない業者から請求が来た場合は、支払う前に消費者ホットライン188や弁護士に相談してください。
Q. 電話ではなく書面でやり取りしたいのですが可能ですか?
A. 債権者に対して、連絡方法についての希望を伝えることはできます。ただし、業者側の対応は一律ではありません。連絡そのものを止めたい場合は、弁護士や認定司法書士に依頼して受任通知を送ってもらう方法が確実性の高い手段になります。
Q. 分割払いの提案をしたら、応じてもらえますか?
A. 応じるかどうかは債権者の判断であり、結果を約束できるものではありません。ただ、収支の状況を具体的に示して現実的な金額を提案したほうが、話が進みやすい傾向にあります。守れない金額で合意すると再び滞納することになるため、無理のある約束はしないでください。判断に迷う場合は、合意する前に専門家に相談を。
まとめ
督促状が届いたら、まず差出人を確認してください。業者からの督促と、裁判所からの支払督促はまったく別の重みを持ちます。裁判所からの支払督促は、送達を受けた日から2週間以内に督促異議を申し立てないと仮執行宣言が付され、強制執行が可能になります。
支払える見込みがない場合でも、放置は最悪の選択です。受任通知によって督促を止める、督促異議や答弁書によって話し合いの場に持ち込む、債務整理によって返済条件を組み直す。いずれも、動いた場合にだけ開く道です。効果や期間、費用は事案ごとに異なりますので、判断は弁護士・認定司法書士・法テラス等の専門家とともに行ってください。




